毎日山の旅日記

毎日新聞旅行

powered by 毎日新聞大阪開発株式会社

関西/大阪・奈良秋晴れの生駒山(642㍍)

 大阪府と奈良県の境にある生駒山に、よく晴れた秋の日に登った。中腹の額田山展望台に立つと、大阪市内が一望できる。六甲山や淡路島を背景に、梅田のビル群が林立している。少し離れた所に超高層ビル「あべのハルカス」(300㍍)がぽつんと建っている。一番のノッポが仲間から遠ざかっているように見えて、どこかユーモラスだ。
 耳を澄ませば、山ろくの公園で遊ぶ子供たちの声、鉄路の音もかすかに聞こえる気がする。人の生活と近く、古くから人とのかかわりが深い山だったのだろう。かつてはきこりや狩人が闊歩(かっぽ)し、柴刈りの人たちもいただろう。老木は「大阪の陣」を見つめていたかもしれない。人の体臭のようなものが山肌から漂うようで、なんとも温かな雰囲気の山だ。首都圏の人里近い山、丹沢や高尾山に登り慣れている私は、生駒山の人くささがいっぺんに好きになった。
 近鉄額田駅を降り立ち、住宅街を抜けて、枚岡公園へ。大勢の親子が遊ぶ中を、展望台を目指して進む。公園内は小径が交錯し、わかりづらい。道標と案内板が頼りだ。展望台には、駅から小1時間程度で到着した。わずかな時間で得られた大阪の大展望に満足度は大きい。
 
額田山展望台からの眺め。大阪市内を一望できる。ひときわ高いのは「あべのハルカス」手前に「近鉄花園ラグビー場」の赤いスタンドが見える 額田山展望台からの眺め。大阪市内を一望できる。ひときわ高いのは「あべのハルカス」手前に「近鉄花園ラグビー場」の赤いスタンドが見える

  一息つき、山頂へ向かう。摂河泉(せっかせん)展望コースを登りつめて行く。所々に急傾斜地や岩の露出箇所がある。転ばないように、息が切れないように、歩幅を小さくしてゆっくり歩みを進めた。アザミの仲間が花を咲かせ、クヌギなどの高木が出迎えてくれた。関東地方の山でよく見るアオキが少ないように思えるのだが、気のせいだろうか。

アザミの一種 アザミの一種

  休みを適度に取りつつ、1時間半ほど歩くと、たくさんの電波塔に行き着いた。まるで鉄の森のようだ。伊丹空港に着陸する航空機の窓から、この鉄塔群がよく見える。太古や中世にはなかった、現代・生駒山のランドマークといえるかもしれない。

鉄塔の森 鉄塔の森
 山頂付近は、入場無料の山上遊園地になっている。休日とあってどのアトラクションも長蛇の列だ。泣く子、笑う子でかまびしすい。が、「うるさい」と思ってはいけない。自分もそうだったに違いないし、未来の地球を支えてくれる人材なのだ。
 一方、この山には、鬼が住民の子供を誘拐して食べた伝説が残る。修験道の開祖・役小角(えんのおづぬ)が鬼の子供を連れ去り隠してしまう。困った鬼は改心を誓い、以後は役小角に付き従ったという。周辺には「鬼取町」の地名も残る。幼子の姿があふれる平成・生駒山には似つかわしくない伝説だが、親子の情愛は今も昔も、人も鬼も変わらないということか。
 
にぎわう生駒山山上遊園地 にぎわう生駒山山上遊園地
 また、この山の一等三角点も興味深い。他の山なら山頂付近に露出しているのだが、ここではミニ蒸気機関車の敷地内に立っている。鉄路と三角点の不思議な取り合わせだ。柵を乗り越えられないので、触れることはできない。一等三角点が大切に保管されているようで、これはこれでほほえましい。
 周囲は家族連れやカップルばかり。予想外のにぎわいの中で、中年男の私は1人でおにぎりを食べた。なんとなく居心地が悪い。好天に恵まれた休日の生駒山山頂は、独り者には不向きなのだと得心した。明るい声に背中を押されるようにして山を降りた。幸いにも生駒山には登山ルートはたくさんある。今度は1人ではなく、仲間と歩いてみたい。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
 
 
鉄路に囲まれた一等三角点 鉄路に囲まれた一等三角点
●アクセス● 人気の山だけに、鉄道によるアクセス方法も多い。近鉄の額田駅、石切駅、生駒駅、南生駒駅、新石切駅から各登山口へ。山頂へ向かうケーブルカーは、生駒駅前から乗車できる。
●石切温泉ホテルセイリュウ● 石切駅から徒歩5分ほどにあるホテル。入浴料1000円(2018年11月現在)で日帰り温泉が楽しめる。浴場からは大阪市内が一望にできる。浴場の直下を近鉄電車が走り、鉄道ファンも楽しめるだろう。大阪府東大阪市上石切町1-11-12 072-981-5001
感想をお寄せください

「毎日山の旅日記」をご覧になった感想をお寄せください。

※感想をお寄せいただいた方に毎月抽選でポイント券をプレゼントいたします。

〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

ページ先頭へ