毎日山の旅日記

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奈良の山芝の山・古都の若草山(342㍍)

「山登りの練習のために、どんな山に登ったらいいのですか」と、初心者の方に聞かれることがある。
私は「標高が低い」「大勢の観光客や登山者がいる」「自宅から3時間以内にある」とお伝えするようにしている。標高が低ければ山頂までの歩行距離も短く、時間をかけずに満足を得られる。大勢の人と行動を共にすれば、道に迷うリスクを軽減できる。さらに怪我や急病時の手助けも期待できるだろう。自宅から3時間以内とするのは、早く帰宅するためだ。登山に体が慣れていないうちは、過度の疲労や体調不良に陥りやすい。そうした時に自宅が近ければ安心感につながる。また、交通費の節約にもなる。
 こんな条件の山は関東なら、東京都八王子市の高尾山(599㍍)がうってつけだろう。関西では、若草山(奈良市)をお勧めしたい。
 
芝生の山を登る 芝生の山を登る
 若草山と言えば、冬の風物詩・山焼きが有名だ。
 また、麓(ふもと)から山頂まで芝に覆われていることでも知られている。
 巨大な芝山と言えなくもなく、全国的にも珍しいのではないだろうか。
 それでは登ってみようと、2018年11月のよく晴れた日に出かけた。
 東大寺の大仏殿を横目に見ながら、若草山山麓の登山口「南ゲート」へ向かった。
 赤くなったもみじが青空に映える。
赤くなったもみじを見つつ 赤くなったもみじを見つつ
 150円の入山料を払い、ゲートを通過した。「南コース」と記された道標が突っ立っており、迷いようがない。芝生に設(しつら)えられた石の階段を踏む。汗をかかないように、息が上がらないように、「ゆっくり」という言葉を意識しながら丁寧に足を置く。登りのコツは、とにかくゆっくり歩くことにある。
もちろん速度には個人差がある。目安としては、仲間との会話を楽しみながら歩けるスピードと考えよう。
 
三重目。金剛山も見える 三重目。金剛山も見える
 南コースの楽しみは、奈良市内の眺望を背中にしながら登ることだ。
 振り向けば、古都の風景が眼前に広がる。
 芝だらけの山は、笠を三つ重ねたような姿をしている。だから、別名は「三笠山」というらしい。
「二重目」「三重目」と記された標識が次々と現れ、笠の上を歩いているようでおもしろい。
 三重目の山頂までは1時間もかからない。さっくりと登ってしまった。
 しかし、展望はすばらしい。遠くに生駒山(642㍍)や金剛山(1125㍍)が見える。
遠くに生駒山を望む 遠くに生駒山を望む
 帰りは、北コースを選択した。こちらは樹林帯を通り抜ける部分があり、陽射しが強い時にはよいだろう。途中の茶店で、鹿せんべいを買い求めた。近くにいた2頭の鹿に差し出すと、恐る恐るこちらに近寄って遠慮気味に口にした。群がり突進してくる奈良公園の鹿に比べると、山の鹿はどこかおっとりとしているようだ。下山して、奈良県の名産・柿の葉寿司を買い求めた。ほどよい塩気が舌にやさしく、塩分補給にも向いているかもしれない。山を降りたら土地のものを食べるのも登山の楽しみだろう。
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
 
山頂付近にもたくさんの鹿がいた 山頂付近にもたくさんの鹿がいた

 ●アクセスと装備● 近鉄奈良駅から徒歩30分ほどで「北ゲート」「南ゲート」にたどり着ける。東大寺などを散策しながら歩けば、いつの間にか到着している。注意したいのは営業時間と開山期間があることだ。営業時間は午前9時~午後5時まで。現時点の開山期間は3月第3土曜日から12月第2日曜日となっている。また、必ずしも登山の装備は必要ない。スニーカーなど動きやすい靴で登ってみよう。転倒に備えて両手を空けるため、リュックサックなど背負うカバンがあればなおよいだろう。

若草山山頂 若草山山頂
 
 
 
 
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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