〜山記者の目〜 2019年03月22日 小野博宣
関東/東京(東京毎日)ステップ①高尾山(2019)
東京・八王子市の高尾山は標高は599㍍と低山の部類だが、登山客や観光客は年間260万人もあるという。人が登る山としてはおそらく世界1だろう。土日・祝日には山頂は人波で埋め尽くされる。初心者や入門者が富士山登頂を目指す「安心安全登山教室2019」のステップ1が3月、高尾山を舞台に開かれた。午前9時半、京王線の高尾山口駅前には29人の参加者が集まった。真新しいザックや登山靴が目立つ。
「急な登山道があります」と下山路について説明する上村博道・登山ガイド
上村博道・登山ガイドが先導して、駅からほど近い博物館「599ミュージアム」前へ。芝生の広場で、靴ひもの結び方や山道の歩き方の講義を受けた。上村ガイドは「歩幅を狭くして歩くことを意識してください」とアドバイスした。準備体操の後、一行は川沿いの道をたどった。琵琶滝ルートと呼ばれるこの登山道は水辺に近く涼しいため、夏場の暑い時にはもってこいだ。修験者が滝行を行う琵琶滝で一休みし、急な斜面を登ってゆく。上村ガイドは「ここからが急になります。富士山へのキックオフですよ」と励ました。
急斜面を登る鈴木正喜・登山ガイドと参加者のみなさん
露出した木の根っこや岩があり、都会の道とはまったく違う。先頭の上村ガイドはゆっくりと歩みを進めた。40分ほどで、稜線に出ると、道は平坦で歩きやすくなる。この周辺から先は古刹・高尾山薬王院のほか、観光施設のさる園や野草園、レストランもある。大勢の観光客に混じり、山頂へ。あいにくの曇り空で、神奈川県の丹沢山地の雄大な山並みは見られなかった。男性参加者は「富士山はどちらに見えるのですか」と目標の山に思いをはせていた。
高尾山山頂でストックの使い方について話をする上村博道・登山ガイド
山頂出発前に、上村ガイドはストックの使い方を伝えた。「ストックを使うとバランスが保てます」「危ないので、後ろに跳ね上げないで」と具体的だ。帰路は急な下山道を含む山道を歩いた。女性参加者は「下りは滑りそうで怖い」とおずおずと足を下ろしていた。
登山道には高尾山名物のスミレはまだ咲いていなかったが、ミツマタの花が咲いていた。鮮やかな黄色の花は春の到来を告げているようだ。茨城県から来た60歳代の女性は「見ているだけだった富士山に登れる可能性が出てきたと思います。頑張ります」と意欲を見せていた。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2019年3月16日登頂)
ミツマタの花が咲き誇る
【富士山へ向けて2 持ち物その2】登山靴、ザック、レイン・ウェアは富士登山の三種の神器だが、他にも必要なものがある。ヘッドランプ、ストック、行動食、ファストエイドキットだ。富士山では夜明け前に山小屋を出発することになるのだが、岩だらけの登山道を歩くにはヘッドランプは必須だ。また、山小屋でトイレに行く際にも暗い廊下などを照らすためにほしいところ。山小屋に着いたらヘッドランプをネックレスのように首に巻いて就寝しよう。
ストックは身体のバランスを保ったり、下山時につえ代わりになったりする。中高年登山者はできるだけ携行したい。グリップがT字のものとI字のものがあるが、I字がお勧め。I字部分のグリップをしっかり握ると地面に腕力を伝えやすい。
行動食は登山行動中にさっと口中に含み、塩分や糖分を補う。私はふた付きのカップ酒の空き瓶にドライフルーツを入れて持ち歩いている。アメやチョコレートでもよく、休憩時にこまめに食べるようにしたい。ファストエイドキットは万が一のけがや急病に備えてのものだ。市販のキットが登山道具店に売っている。これに持病の薬などを足しておく。筆者は下痢止めと痛み止めのロキソニンを入れている。
手お振る上村博道・登山ガイドと参加者の面々
【高尾山】大都市・東京にありながら緑が濃く、1600もの植物が生育しているという。古くから修験道の修行の場であり、戦国武将や江戸幕府も山域を保護してきた。多くの先人が守り伝えたことで豊かな自然が残ったといえるだろう。そのすばらしさは日本人だけでなく、海外からも高く評価されている。2009年には、「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三つ星が贈られた。登山する山としての高尾山は中級者には物足りない。だが、高尾山の山域は広く、縦走路やバリエーションルート(より困難な登山路)も数多く存在する。じっくりと楽しみたい。
- 〜山記者の目〜プロフィール
- 【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
- 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長