〜山記者の目〜 2019年04月24日 小野博宣
関東・富士周辺の山(東京毎日)ステップ②丹沢大山
神奈川県の名峰・大山(1252㍍)を「江戸情緒を伝える山」として、以前当コラムで紹介した。江戸時代には大山講の信者の皆さんが大挙して押し寄せていたのだが、21世紀の現代では登山客、どちらかというと初心者の方々が大勢登っておられる。登山口の大山阿夫利(あふり)神社下社から山頂までは、2時間程度と登りやすく、小さな子どもたちから高齢者まですべての世代が歩いている。
登山口で急こう配の階段に登る。いきなりの洗礼だ
2019年4月中旬、初心者や入門者が富士山登頂を目指す「安心安全登山教室2019」のステップ2が大山を舞台に行われた。参加者24人は午前9時に小田急線伊勢原駅改札に集まった。真新しいザックや登山靴が目立つ。だが、ステップ1・高尾山を終了しているだけに、落ち着いた様子だ。上村博道ガイドがあいさつし「今日は気温が高く、空気が乾燥しています。熱中症の恐れがあるので意識的に水を飲んでください」と注意喚起した。気象予報士の資格を持つ上村ガイドならではのアドバイスだろう。
バスとケーブルを乗り継いで、阿夫利神社下社に到着した。標高は700㍍もある。山頂までの標高差は550㍍ほどだが、急傾斜地もあり初心者はゆっくり歩きに徹したい
富士見台から春霞の富士山を見る
午前11時過ぎ、登山口へ。一行を出迎えたのは、急こう配の階段だ。恐怖心を覚えるほどだ。「これはきつい」と驚きの声が上がった。長い階段の後は、山道が続く。木の階段や岩場もある。じんわりと参加者の額に汗がにじんできた。息が弾み、ほほが赤くなってきた女性もいる。上村ガイドは「段差の低い所を選んで登ってください。(小さな歩幅で足を動かして)歩数を稼いでください」「歩幅を小さくするのは、富士山に登るためにも重要です」と声をかけ続けた。
スミレの花が出迎えてくれた
標高が1000㍍を超えると、展望台の「富士見台」に飛び出た。白雪に覆われた富士山が正面に見えた。「わぁー」「きれい」と驚きと喜びの声が上がった。春霞の向こうの富士山はまだ厚い雪をまとったままだ。今年は雪解けが遅いのかもしれない。
山頂までもう少し。急な岩場を着実に登る。「前の人に『追いつかないといけない』と考える必要はありません。花を見る余裕を持って歩いて」とアドバイスが飛んだ。
山頂から相模湾の大展望を楽しむ
房総半島、三浦半島、江ノ島、真鶴半島、伊豆半島を眼下に収める大展望を楽しみながら、昼食を広げた。午後1時過ぎ、下山路へ。帰りは丹沢山地の登山口の一つ、ヤビツ峠に向かう。急な斜面や小さな岩場もある。「下りもマイペースでいきましょう」と声がかかった。「富士山は登った分だけ下ります。登りでエネルギーの消費を抑えることがコツです」と上村ガイドが話した。
登山道には、マメザクラが満開となっていた。小ぶりなマメザクラの花は下を向いて咲く。富士山を目指す一行を歓迎しているかのようだ。50代の女性は「ステップ1の高尾山の方が初めての山登りだったので大変でした次も頑張ります」と笑顔だ。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2019年4月16日登頂)
満開のマメザクラの下、下山する参加者たち
【富士山へ向けて6 持ち物その6】持病のある方や体調に不安な人は、いつも使っている薬を持っていこう。筆者がいつもザックに忍ばせている常備薬を紹介しよう。まずは漢方薬の「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」だ。登山中に疲労などにより足がつることはままある。足が本格的につり、痛みが走る前に服用しよう。2つ目は、下痢止め薬だ。私の経験では、切羽詰まってから服用してもまったく効かない。「調子が悪いな」と嫌な予感がしてから、時間に余裕をもって服用するのが良いだろう。
もう一つは痛み止めの「ロキソニン」。生理痛や歯痛、解熱などに使用するイメージがあるが、山中ではひざの痛み止めとして利用する。長時間の歩行などでひざの関節などに違和感が出だしたら、服用しよう。痛みを和らげる効果がある。一時しのぎに過ぎないのだが、下山口まで痛みを抑えて自力歩行できればいいわけだ。平地に着いたら病院に行くなどして手当てを受けよう。いずれも副作用のおそれはある。購入の際には医師や薬剤師に相談したい。また、ザックに放置せず、使用期限はこまめに確認しよう。
- 〜山記者の目〜プロフィール
- 【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
- 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長