〜山記者の目〜 2019年06月11日 小野博宣
関東・富士周辺の山(東京毎日)ステップ④明神ケ岳(2019)
初心者や入門者が富士山を目指す「安心安全富士登山教室2019」のステップ4が6月初旬、神奈川・箱根の明神ケ岳(1169㍍)を舞台にして行われた。24人の参加者は東京駅前からバスに乗り、箱根路を目指した。仙石原の金時登山口で下車した一行は身支度を整え、出発した。
気持ちのよい笹原を歩く
まずは別荘地の緩斜面をゆっくり歩く。15分ほどで登山口にたどり着く。ここで上村絵美ガイドは「衣服調整を」と声を掛けた。「暑くなりますので、一枚脱いでくださいね」「水分補給も忘れずに」。樹林帯を20分ほど登ると、矢倉沢峠のうぐいす茶屋前に出た。平日とあって茶屋は休みだったが、ザックを下ろして水分を口に含む。
噴煙を上げる大涌谷を横に見て稜線を歩く
矢倉沢峠を出ると、背丈ほどもあるササ藪(やぶ)の回廊を進む。ゆるやかなアップダウンが続き、涼風がほほをなでた。振り返ると、げんこつのような金時山(1212㍍)が見えた。足元にはウマノアシガタ(キンポウゲ)の黄色い花が揺れていた。空が広く、青く、なんとも爽快な気分になる。やがて登山道は緑の濃い樹林帯に入る。木々が日差しをさえぎってくれ、暑さをしのぎやすくなった。
遠くに明神ケ岳の稜線が見えるようになると、傾斜が徐々に急になってくる。登りの滑りやすい路面に差し掛かると、上村ガイドは「登山靴で(地面を)押さえつけるように」「小またで歩いて」とアドバイスを送った。
稜線に上がると展望の良い道が続く。右手には噴煙を上げる大涌谷が見えた。白い煙を絶え間なく吐き続けているのが分かる。「ゴー、ゴー」と地鳴りのような音がかすかに聞こえた。地球が生きていることの証だろう。
明神ケ岳の山頂。奥に見えるのは大涌谷
なだらかな稜線はやがて明神ケ岳の山頂となった。参加者は大涌谷を背景に記念撮影をし、思い思いに昼食をとった。上村ガイドが登山地図を広げて、即席の地図読み講座を開いた。コンパスを使って地図と実際の方角を合わせる。眼前の山々と地図上の山々がピタリと一致する。「あそこに見えるのは金時山。ちょっと下って乙女峠です。今朝バスで通ったところですね。覚えてますか」と解説すると、参加者からは「おー」と驚きの声が返った。「富士山は(曇り空のため)見えませんね。でもこちらの方向です」と指さすと、皆も富士山の姿を探すように目を向けた。
山頂では簡単な地図読み講座を行った
宮城野への下山路は急斜面が続いた。ゆっくり慎重に歩き、全員が無事下山した。歩行時間は7時間だ。初めての長時間行動となった。女性参加者は「こんなに長い時間歩いたことはないが、富士山に向けて自信になった」と話した。帰路、バスの車窓越しに富士山が見えた。車内は時ならぬ歓声と拍手に包まれた。憧れの富士山、どうしても登りたい富士山。皆の思いが弾けた瞬間だ。中高年の皆さんがこれだけ喜びをあらわにする山はたったひとつ、富士山だけだ。根強い人気を実感する。それとともに「必ず登っていただかなくては」との思いにかられた。参加者の皆さんとぜひ登頂の喜びを分かち合いたい。
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2019年6月4日登頂)
下山を前に靴紐の締め方を講習した。「靴ひもをフックに引っ掛ける時は下から上に」
【富士山へ向けて9 山小屋2・トイレ】
山小屋に初めて泊まる人はトイレが気になるだろう。富士山の山小屋のトイレに関しては、概ね清潔で使いやすい。宿泊客の利用は無料となっているところが多いが、原則は有料だ。料金は100円~500円とさまざま。小銭をたくさん持ってゆくといざという時に困らない。
車窓からの富士山。この夕景に大歓声が上がった
- 〜山記者の目〜プロフィール
- 【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
- 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長