〜山記者の目〜 2019年12月17日 小野博宣
関東・富士周辺の山おおらかな陣馬山(855㍍)
誰にでも毎年登る山はあるかもしれない。私にとっては富士山(3776㍍)や丹沢の塔ノ岳(1492㍍)、六甲山(931㍍)がそれだ。お気に入りの山と言おうか。そして、高尾山系の陣馬山(855㍍)も気が付けば毎年登っている。神奈川県と東京都の境にあり、都心から気軽に行けることも魅力の一つなのだろう。晩秋の一日、足慣らしを兼ねて陣馬山の山頂を目指した。
あざやかな紅葉
JR中央線藤野駅からバスに乗り、8分程度でバス停「陣馬登山口」に着いた。路上で素早く身支度を整えて歩き始めた。点在する住宅をぬうように進み、次第に山道となってゆく。一ノ尾根に乗れば、急傾斜もそれほどない気持ちの良い山歩きとなる。見事に黄葉したダンコウバイや赤いモミジが目に留まる。美しい風景に心がなごむ。そして、季節の移り変わりを実感する。
JR藤野駅ホームから見える山中のラブレター。同駅名物となっている。
樹木の根におおわれた道を慎重に歩み、傾斜が急になると山頂は近い。木の階段を上っていると、左手にシモバシラを見つけた。シソ科の多年草で、厳冬期に枯れた茎に氷の結晶を作る。このため「霜柱」(シモバシラ)と名付けられたという。小さな氷柱の白さは冬の到来を告げているようだ。
陣馬山山頂付近のシモバシラ
山頂に近づくと、にぎやかな声が聞こえてきた。茶店の客たちが寒風の中で食事をし、仲間との会話を楽しんでいる。その騒ぎを横目に見ながら、頂に飛び出ると、陣馬山のシンボル・白馬の像が出迎えてくれた。像に向かい、「また来たよ」と心の中で呼びかけてみた。青い空にのびやかに首を伸ばしている白馬。いななきが聞こえるわけがないのだが、再会を喜んでくれているように見える。
陣馬山のシンボル・白馬の象
広々とした山頂には大勢の登山者がおり、好天気と大展望にみんな笑顔だ。怒っている人や悲嘆に暮れている人はいない。なんと幸せな風景なのだろう。
にぎわう山頂
茶店に立ち寄りノンアルコールビールでのどを潤した。八王子駅で購入した鮭ののり弁とインスタント味噌汁で昼食を取った。遠くには富士山、丹沢の峰々、白雪の南アルプスも見える。東京や横浜も遠望でき、太平洋も見える。
陣馬山山頂からの富士山
おおらかな雰囲気に満たされた陣馬山は、低山でありながら名山でもある。とてもぜいたくな山旅となった。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2019年11月30日登頂)
黄葉の中、下山する登山者
- 〜山記者の目〜プロフィール
- 【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
- 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長