〜山記者の目〜 2021年07月01日 小野博宣
静岡(東京毎日)ステップ⑤宝永山(2021)
富士山のスカイライン(輪郭)は美しい。だが、その南東部には流麗な斜面を断ち切る、無粋な凹凸がある。江戸時代中期の1707(宝永4)年に大噴火した際の痕跡で、凹部は宝永火口、凸部は宝永山(2693㍍)という。何しろすごい噴火だったと記録に残っている。火山灰は遠く離れた江戸の地にも積もり、農地や家屋への被害も甚大であった。富士山の噴火としては最大のものといわれており、もし同規模の噴火が起こったら、日本経済や社会、そして人の健康に与える影響は甚大なことは言うまでもない。歴史的な災害の爪痕であり、教訓を今に伝える宝永山だが、山体にはしっかりとした登山道がついている。実は登れる山なのだ。
宝永山山頂
初心者が富士山を目指す実技講座「安心安全富士登山2021」のステップ5が6月27日、宝永山を舞台に行われた。参加者25人は早朝、東京駅前に集合し、専用バスで登山口のある富士宮口5合目に移動した。
富士山の一部である宝永山登山のコツは、砂の侵入を防ぐことにある。火山で噴出した岩や砂が分厚く積もり、歩くたびに砂ぼこりが巻き上がる。口や鼻は、コロナ禍もありマスクをつけているので安心だろう。目は眼鏡やサングラスで防ぎたい。足元はロングスパッツを装着し、砂や小石が登山靴の中に入るのを遮断しよう。こうした装備を身に着けて、午前10時40分ごろ、一行は登山口に入った。
富士山の一部である宝永山登山のコツは、砂の侵入を防ぐことにある。火山で噴出した岩や砂が分厚く積もり、歩くたびに砂ぼこりが巻き上がる。口や鼻は、コロナ禍もありマスクをつけているので安心だろう。目は眼鏡やサングラスで防ぎたい。足元はロングスパッツを装着し、砂や小石が登山靴の中に入るのを遮断しよう。こうした装備を身に着けて、午前10時40分ごろ、一行は登山口に入った。
宝永火口に向かい、岩場を慎重に歩く
ゴツゴツとした岩の上をバランスよく歩く。溶岩が冷えて固まった道であり、不用意に手をつくと皮膚を切り裂かれそうだ。やがて道はカラマツ林に到達した。足元には火山性の植物、フジハタザオやオンタデが白やクリーム色の花を揺らしていた。
山小屋「宝永山荘」「雲海荘」前のベンチで小休止した。曇りがちな天候で、時折霧に包まれた。ここから先は火口に下りてゆく。砂地の上を歩くことになる。宮崎隆樹ガイドが「ゆっくり歩きます。歩幅を小さくして歩いてください」とアドバイスをした。
山小屋「宝永山荘」「雲海荘」前のベンチで小休止した。曇りがちな天候で、時折霧に包まれた。ここから先は火口に下りてゆく。砂地の上を歩くことになる。宮崎隆樹ガイドが「ゆっくり歩きます。歩幅を小さくして歩いてください」とアドバイスをした。
花をつけたオンタデ
時折霧が晴れると、目指す宝永山の山頂が見える。長田由紀子ガイドが「正面に見えるのが宝永山です」と声をかけた。参加者からは「おー」「雄大な景色だ」と歓声が上がった。広い火口の底で行動食を取り、山頂への登山道に取り掛かった。石ザレの急斜面で、登山靴を置くとズルズルと後ろに下がってしまう。忍耐強く進まなければならない。山頂からの風が汗ばんだ肌に心地よい。両ガイドを先頭に参加者たちは、じっくりと歩みを進めた。その光景は、月面の上を歩いているようにも見えた。
にぎわう宝永山山頂
約1時間後、一行は山頂へと続く稜線にたどりついた。もう登りはない。宝永山の頂(いただき)は間近だ。そして、皆が笑顔で山頂に立つことができた。青空も広がり始めた。参加者の女性が「富士山の山頂はどこですか」と尋ねた。長田ガイドが「あそこです。山頂が見えてますよ」と指をさした。多くの参加者が目指す山頂を仰ぎ見た。「富士山の本番まであと1カ月余り。練習登山を重ねて、絶対に登りたい」と意気込む声が聞かれた。私も多くの参加者の皆さんとともに、2年ぶりの富士山頂に立ちたいと思う。その後、一行は大砂走りと呼ばれる下山道を2時間ほど歩き、御殿場口新五合目にたどり着いた(2021年6月27日登頂)。
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】
霧の中を下山した
- 〜山記者の目〜プロフィール
- 【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
- 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長