毎日山の旅日記

毎日新聞旅行

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中国 毎日登山塾ステップ4・大山・皆ヶ山

 作家、深田久弥氏の著書「日本百名山」が、登山者に与えた影響は大きなものがある。登る山の選定基準のひとつにしている方もいるだろうし、百名山完登を目標にしている人も少なくない。では、「山」にとっての「日本百名山」はどんな存在だろうか。この本によって名を知られた山もあったと思う。その一方、同書の存在がなくとも名山としてその芳名を刻む山もある。そのひとつが、中国地方の雄・大山(1709㍍)であることは間違いない。
伯耆大山山頂 伯耆大山山頂
大山は、733(天平5年)に成立したとされる「出雲風土記(いづもふどき)」に、早くもその名前(火神岳=ほのがみのたけ)が見える。また、山容も独立峰として目立つことこの上ない。崩壊が進む北壁の白い岩峰群と樹林帯の緑のコントラストは、見る者に畏敬とも畏怖ともつかぬ念を起こさせる。また、民謡・安来節にもその名が歌われており、人々に親しまれてきた。歴史、存在感、山の美しさ、どれをとっても群を抜いている。「百名山」に選定されていようがいまいが、中国地方のみならず日本を代表する山の一つであることは疑いようがない。
麓から見た伯耆大山 麓から見た伯耆大山
 2022年6月19日午前9時過ぎ、大山の夏山登山道を登り始めた男女17人がいた。毎日新聞旅行の登山ツアー「富士登山塾ステップ4」の参加者たちだ。登山初心者の皆さんが、低山から登り始め、徐々に標高の高い山に登り、8月には富士山登頂を目指す企画だ。 この日の鳥取地方の最高気温は30度を超えると予想されていた。しかし、朝方でもあり、樹林帯にはさわやかな風が吹いていた。「階段がずっと続きます」と高山宗規・登山ガイドが呼びかけた。高山ガイドはゆっくりと階段を踏みしめ、1合目の道しるべにたどり着いた。参加者が「まだ1合目か」とため息をつくと、高山ガイドは「もう1合目ですよ」とすかさず励ました。ブナ林の中を一行は登り続けた。高山ガイドは「階段の段ばかり見ないで、顔を上げてブナの木も見てください」と呼びかけた。
ひたすら階段が続く登山道 ひたすら階段が続く登山道
午前11時20分、標高1280㍍付近にある六合目避難小屋に到着した。「ここで休憩しましょう」と声がかかった。避難小屋の建つ場所から、登山口のある大山町の街並みが見下ろせた。参加者の女性は「ずい分登ってきたのねぇ」と感心しきりだ。 さらに8合目付近で小休止した。「この上を登れば木道があります。頂上までもう少しですよ」と高山ガイドは声をかけた。その言葉通り、一行はほどなく草原上の山頂に到達した。眼前には緑の草のさざ波が広がっていた。そして、抜けるように青い空が迎えてくれた。圧倒的な自然の美しさに心が躍った。「あぁ、なんて美しいのだろう」。そんな声が漏れた。「頑張って登って良かった」とも。山頂で休憩の後、下山を開始した。これほど美しい山頂を擁した山はあまりないだろう。山頂の美しさだけに着目すれば、富士山をも凌駕(りょうが)している。「いい山に登ったな」。そんな感慨を抱いて下山路を歩いた。
大展望の中、山頂へ 大展望の中、山頂へ
 前日の6月18日に一行は、大山の南東にある皆ケ山(みながせん、1159㍍)に登頂した。こちらもブナの木々が美しく、ギンリョウソウ、ササユリ、ナルコユリなどの花々が迎えてくれた。ただし、泥の急こう配があり、登るのも降るのも注意が必要だ。
ナルコユリの一種と思われる ナルコユリの一種と思われる
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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