〜山記者の目〜 2022年08月04日 小野博宣
東海毎日登山塾ステップ6・富士山 (8/4発)
「雄大だなぁ」「すごいスケール」。2022年8月6日午前7時20分過ぎ、富士山の側火山・宝永山(2693㍍)の山頂に立った一群の男女から、感嘆の声が漏れた。足元から雲がわき、振り返れば赤銅色の肌をむき出しにした富士山がそびえていた。日常生活では見ることができない壮大な光景は、人々を笑顔にした。宝永山は、1707(宝永4)年の噴火で誕生した。遠く離れた江戸にも火山灰が堆積したと記録に残っている。それ以来富士山は噴火をしていない。
富士山・最高峰の剣ケ峰
「あそこに雪のようなものがあるけれど……」。参加者が指をさした。富士山南側斜面に、積雪のようなものが確かに見える。火口内の雪なら見たことがあるが、夏の太陽に照らされる南面に雪が残るだろうか。一抹の疑問はあるが、白い堆積物が雪でなくて何であろうか。誠に勝手ながら「雪」と判断した。「雪だと思います」と答えさせていただいた。
宝永山山頂からの富士山。えぐれた第一火口が荒々しい。その上に白い積雪が見える
一行24人は、毎日新聞旅行が主催する「富士登山塾」の参加者だ。8月4日早朝に大阪・梅田を専用バスで発ち、同日は六合目の山小屋「雲海荘」に宿泊した。5日午前4時52分、高山宗則・登山ガイドが「3月の二上山から努力を重ねてきました。その成果を見せましょう」と激励し、一行は歩き始めた。登山塾では、登山初心者が毎月、低山から標高を徐々に上げて8月の富士山登頂を目指す。3月には真新しかった登山靴やザックも年季が入ってきた。
宝永第一火口底から馬の背を経由して御殿場ルートをゆっくり登ってゆく。足元は砂と石でざらつき、一歩踏み出すごとに数㌢は後退してゆく。「ゆっくり歩いて」「息を吸って」と高山ガイドが声をかけた。山肌を駆け上る雲に行く手を遮られ、白い霧に包まれる瞬間もあった。つづら折りの道はどこまでも続き、一行のあえぐ声が風に乗って聞こえてくるようだ。
宝永第一火口底から馬の背を経由して御殿場ルートをゆっくり登ってゆく。足元は砂と石でざらつき、一歩踏み出すごとに数㌢は後退してゆく。「ゆっくり歩いて」「息を吸って」と高山ガイドが声をかけた。山肌を駆け上る雲に行く手を遮られ、白い霧に包まれる瞬間もあった。つづら折りの道はどこまでも続き、一行のあえぐ声が風に乗って聞こえてくるようだ。
宝永第一火口底を背に登る
そして、午前11時半、念願の富士山頂に立った。高山ガイドが「お疲れ様」「おめでとうございます」と声をかけ、「やっとや」「自慢できる」と安堵の表情だ。最高峰の剣ケ峰で記念撮影をしたのち、下山を開始した。高山ガイドは「下りでケガをする人が多い。しっかり気を引き締めて」と呼びかけた。午後2時半、山小屋「赤岩八号館」に到着した。
山頂到着。高山ガイド(右)とハイタッチする参加者
食事の前に、缶ビールや持ち込んだ焼酎で祝杯を挙げた。男性の参加者は「関西人の方が富士山に思い入れがあるのではないかな。普段見えないし、新幹線で富士山が見えると写真を撮ってしまう」と笑った。その通りかもしれない。一方、横浜出身の筆者も富士山を見ると、心が弾む。それは出身地を問わないだろう。それどころか、世界中の人々が富士山の英姿を讃嘆していることも、忘れてはならない。
宝永山山頂
- 〜山記者の目〜プロフィール
- 【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
- 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長