毎日山の旅日記

毎日新聞旅行

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奈良県毎日登山塾ステップ② 大和葛城山

 雨の登山は憂うつなものだ。苦労して山頂に立っても、展望は望めない。登山道で突然の雨に遭い、あわててレインウェアを着ることもある。体が濡れれば、当然肌寒さは募る……。一方、雨天登山は、技術向上のためには避けて通れない。泥ねいと化した登山道の歩き方、雨用の装備などを、経験を通して学ぶ絶好の機会となる。
雨に煙る大和葛城山山頂 雨に煙る大和葛城山山頂
 2023年4月15日朝、奈良県御所(ごぜ)市と大阪府千早赤阪村にまたがる大和葛城山(959・2㍍)の登山口に、登山服の男女19人の姿があった。屋根のあるロープウェイ駅前ベンチで、一行はレインウェアを着始めていた。毎日新聞旅行の初心者向けツアー「富士登山塾ステップ2」の参加者たちだ。3月にステップ1の低山から登り始め、月ごとに標高を上げて8月には富士山に立つ実技講座だ。
受講者の中には、レインウェアの装着に手間取る人もいた。ウェアを着るのは初めてという人もいただろう。リーダーの高山宗則・登山ガイドは「(登山靴を泥などの汚れから守る)スパッツは、レインウェアの下に付けてください」「スパッツを付けてから雨具のズボンをはきます」とアドバイスした。
全員がレインウェアを着込んだのを見計らって、高山ガイドは行程の説明を始めた。「今日はロープウェイを使いません」「北尾根コースを登ってゆきます」。全員が静かにうなずいた。午前10時16分、「さぁ、出かけましょう」との掛け声で、雨中に一歩を踏み出した。
高山ガイドを先頭に北尾根ルートを歩く 高山ガイドを先頭に北尾根ルートを歩く
樹林帯の急斜面が続く。「登山道は雨で滑りやすくなっています。慎重に」と注意が飛んだ。濡れた土の道に静かに靴を下ろした。手を使って高い段差をよじ登る場面もあった。「一歩一歩の歩幅を狭くして」「足の裏全体を地面につけてください」。高山ガイドは何度も繰り返した。ゆっくりと歩みを進め、1時間後には眺めの良い展望ベンチに到着した。ここで休憩となった。「ザックを下ろして、必ず水分補給をお願いします」と声をかけた。ホッとして水を飲み、汗を拭いた。5分間の小休止の後、再び歩き始めた。樹林帯では「右側が針葉樹の森です」「左手は広葉樹です。同じ山でも尾根を挟んで植生が違うことが分かります」と自然解説を行った。ヒメシャラの巨木があると、高山ガイドは抱き着いてみせた。「ヒメシャラは表面がとても冷たい。夏の熱い時にはこうして抱きつくと冷気を感じます」と笑った。春を告げるカタクリの群生地も通過した。が、雨に濡れたカタクリはつぼみを閉じたままだ。
雨の中、つぼみを閉じたままのカタクリの花 雨の中、つぼみを閉じたままのカタクリの花
そして、午後1時3分、広々とした大和葛城山の山頂に到着した。「やった」「登れた」と歓声が沸いた。雨も小降りとなった。草原のように広々とした山頂は、すがすがしく、気持ちが良い。遠くの山々が一望でき、眼下に雲海の広がりも見えた。 山頂付近で昼食休憩の後、同じルートを下山した。下山時は、登りよりも慎重にゆっくりと下るのが鉄則だ。「山の怪我の8~9割は下山の時に起きています」「濡れた木の根っこに、登山靴は無力です。根っこを踏まないように歩きましょう」「しっかり集中して」と、高山ガイド声をかけ続けた。午後3時35分、登山口に到着した。高山ガイドは「次のステップ3からは、中級山岳になります。(ステップ1の)二上山、大和葛城山より手ごわくなります。頑張りましょう」と励ました。富士山への挑戦は続く。
大和葛城山の山頂でハイタッチする参加者 大和葛城山の山頂でハイタッチする参加者
【雨天登山の準備】レインウェアのポケットには、ビニールに包んんだタオルと、大きなビニール製の袋を用意しておこう。タオルは濡れをぬぐうのに使う。大きな袋は、使用後のレインウェアをたたんで入れよう。雨の日はスパッツはレインウェアの下に装着する。雪山登山の場合は、雪山用防寒具の上に付けることが原則だ。
大和葛城山山頂から雲海が見えた 大和葛城山山頂から雲海が見えた
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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