毎日山の旅日記

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関東安心安全富士登山 ステップ③筑波山

 茨城県の筑波山(877㍍=女体山)は日本百名山の中で最も低い山として知られている。低いということは、登りやすいということに通じる。2023年5月19日、登山口のひとつ、つつじケ丘には数十人の子供たちの歓声が響いていた。小学校3、4年生だろうか。楽しみにしていた遠足なのだろう。
女体山の山頂にて 女体山の山頂にて
 付近には「安心安全富士登山教室」の参加者27人がたたずんでいた。教室は、登山初心者が毎月山に登り、8月には富士山の山頂に立つことを目的にしている。3月に高尾山(東京都、599㍍)、4月には丹沢・大山(神奈川県、1252㍍)を歩き、経験を積んできた。午前10時前、岡野明子・登山ガイドが「さぁ、出かけましょう」と声をかけた。登山道はいきなりの急傾斜だ。岡野ガイドは「なるべく段差の小さなところを選んで歩きましょう」とゆっくり足を運んだ。曇空の下、汗が噴き出た。しかし、吹く風が涼しく、心地よい。 片側が崖地になっている狭い登山道で、前から歩いてきた登山者とすれ違った。「安全な所に寄って、道を譲ってください」「安全な場所は山側です」と指示した。
女体山へ。急傾斜の登山道を登る 女体山へ。急傾斜の登山道を登る
つつじケ丘コースの見どころは、さまざまな巨岩を見られることだ。巨大な石が今にも落ちてきそうな「弁慶七戻り」、母親の身体に戻ることを模した「母の胎内くぐり」、舟の出入りに見立てた「出船入船」など目を楽しませてくれる。ここを過ぎると、傾斜はさらに急になり、鎖の付いた岩場の通過もある。慎重な歩行が必要だ。
弁慶七戻り。今にも巨石が落ちてきそう 弁慶七戻り。今にも巨石が落ちてきそう
午前11時40分、双耳峰(そうじほう=2つの頂がほぼ同じ高さで並んでいる山)のひとつ、女体山の頂に到着した。山頂は狭く、先端部は切り立った崖になっている。足元に注意が必要だが、関東平野の広がりは絶景だ。「すごい景色」「登らないと見られないね」と感嘆の声を漏らした。一行は男体山(871㍍)に向かった。樹林帯を歩いていると、小学生たちのにぎやかな笑い声が追い付いてきた。「小学生に追い立てられているみたい」と参加者の女性が笑った。小学生をやり過ごして、鞍部(あんぶ=稜線上の窪地)の御幸ヶ原で昼休憩とした。小学生たちもお弁当を広げたり、走り回ったりしていた。登りやすい筑波山は、古くからの景勝地だ。御幸ヶ原で家族連れや子供たちが弁当を広げる姿は、昔も今も変わらないだろう。大輪の笑顔が咲いていたはずだ。筑波山は、子供たちの笑顔が似合う山と言えるかもしれない。
御幸ヶ原。正面は男体山山頂 御幸ヶ原。正面は男体山山頂
御幸ヶ原から男体山山頂は15分も登れば到着する。岡野ガイドを先頭にゆっくりと登りつめた。12時50分、山頂に立った。ここもまた狭いのだが、展望台もあり、安全に景色を楽しめる。「晴れていれば富士山が見えるのですが」。岡野ガイドが残念そうにつぶやいた。平野には田畑が広がっていた。「田んぼがいっぱい」と女性が声を上げた。御幸ヶ原に戻ると、雨が降り出した。参加者はレインウェアを装着した。初めて雨具を使う人も多かったはずだ。そして、御幸ヶ原コースと呼ばれる、樹林帯の登山道を下山した。滑りやすい土の上を歩く。木の根も露出しており、歩きにくい。雨となればさらに足元が不安になる。歩幅を狭くし、足を置く場所を慎重に選びながら歩みを進めた。尻もちをつく人もいたが、雨中の歩行は登山の技術力を一気に高めてくれる。雨に降られてラッキーだったと言えるだろう。
男体山の山頂標識 男体山の山頂標識
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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